業務の手順や処理に必要な知識・スキル、注意すべきポイントなど、業務に関わるさまざまな情報が網羅されたマニュアルは、組織内の成果のばらつきを抑えて、誰でも一定の成果を上げるために効果的なアイテムです。
マニュアルを作成する際は、テーマと利用者を明確に定義しつつ、必要な情報をすぐに探せる検索性の高い構成を心がける必要があります。本記事では、マニュアル作成の方法や作成時の流れ、押さえておきたいポイントや運用時のルールを解説します。
目次
マニュアルとは
マニュアルとは、業務の手順や内容が網羅的に記された文書のことです。どのような手順で業務を進行すべきか、業務を行う際のルールなどがまとめられており、マニュアルを活用することで、従業員が等しく同じ成果をあげられます。
一般的に企業が作成する業務マニュアルには、次のような内容が記載されています。
・全体の業務フロー
・到達すべきゴール
・業務の具体的な手順
・業務の前提条件やルール
・注意すべきポイント
・業務を行うために必要な知識やスキル
上記の内容が網羅されている業務マニュアルを用意することで、新しく入ってきた社員などでもベテラン社員と同等の作業品質や速度を維持できます。
後述するように、マニュアルと手順書は似ているようで異なるものです。
マニュアルと手順書の違い
前述のように、マニュアルには全体の業務フローや到達すべきゴールなど、さまざまな情報が網羅されています。一方の手順書は、業務の手順を細かく記した文書のことを指しています。つまり、「マニュアルの中から、業務の手順に関する情報だけを抜き出したもの」が手順書であるといえるでしょう。
手順書に記載されている業務手順は、マニュアルよりもさらに詳しい内容が書かれていることもよくあります。「該当の業務をどのように行えば結果が出るのか」に特化した文書が手順書です。
例えば、書かれている内容に従って順番に組み立てることで、本棚を完成させられる情報が記されているのが手順書です。一方のマニュアルは、本棚を制作するために注意するポイントや必要な知識なども併せて記されているイメージです。
マニュアルと手順書の違いについては下記の記事でさらに詳しく解説しています。
手順書の作成方法を7STEPで解説!マニュアルとの違いも紹介
マニュアルの役割と目的
マニュアルの主な役割として、業務の標準化や組織全体の業務レベルの向上などが挙げられます。あらかじめマニュアルを整備することで、誰でも一定の品質で業務を処理できるようになります。
組織内にはさまざまなスキルレベルの社員が所属しており、知識やスキルに差が生じると、業務品質にもばらつきが出やすくなります。このような場面でマニュアルを活用することで、不足している知識やスキルを補完し、経験の浅い社員でも一定の成果を上げられるようになるのです。
また、マニュアルを作成することで、人によって処理手順が異なることを防ぎ、統一された最も効率的な処理手順を採用することが可能になります。
マニュアル作成のメリット
マニュアルを作成するメリットとして、業務効率化の実現や属人化の解消のほか、教育コストの削減や業務品質の平準化を達成できることなどが挙げられます。ここでは、マニュアル作成の4つのメリットを紹介します。
マニュアルのメリットについては下記の記事でさらに詳しく解説しています。
マニュアルのメリットとは?デメリットや定着のコツも詳しく解説
業務効率化をはかれる
マニュアルを作成することで、業務の詳細な手順を手早く確認できるようになり、業務効率化をはかれます。
いつもの担当者が不在のときに、不慣れな担当者が代わりに業務を行おうとすると、担当者に連絡を取って手順を確認するなどの作業が発生します。あらかじめマニュアルを用意しておけば、このような確認作業が不要になり、すぐに正しい手順を確認できます。
また、久しぶりに作業を行うときにマニュアルを手早く確認するなどの対応も取れるようになり、スムーズに業務に取りかかれます。
属人化の解消につながる
マニュアルを作成することで、誰でも業務を処理できるようになり、属人化の解消にもつながります。
企業においては、どのような業務であっても、メインの担当者が配置されているケースが一般的です。しかし、メインの担当者が急な外出や休暇などで不在になったときに他の従業員が処理手順を知る方法がなければ、メインの担当者が急遽出勤する必要が生じて、負担が重くなります。
マニュアルを用意しておけば、いつでも他の従業員が手順を確認できるため、外出や休暇などの不在時にメインの担当者が無理に出勤する必要はなくなります。
属人化の概要や解消方法については下記の記事でさらに詳しく解説しています。
属人化とは?発生する原因や解消のための3つの手順を解説
教育コストを削減できる
使いやすく情報量が十分なマニュアルが整備された現場では、初心者でもマニュアルに従って作業を行うだけで一定の成果を上げることができます。そのため、新入社員や異動してきた社員に新しい業務を教えるときも、マニュアルの内容を参照しながら自学自習をしてもらうことが可能になります。
マニュアルを作成しておくことで、教育担当者がつきっきりで業務を教える必要がなくなるため、教育コストを削減できるというメリットがあります。
業務品質の平準化を実現する
業務品質の平準化を実現できるのも、マニュアル作成のメリットのひとつです。
一般的に、多くの業務は、経験の少ない社員よりも経験豊富なベテラン社員の方が良い成果を出すことができます。組織全体がより良い成果を上げるためには、経験の少ない社員でも安定的に成果を出すための仕組みづくりが求められます。
マニュアルを作成することで、手順に従って業務を進めるだけで誰でも同じ成果が出るため、業務品質の平準化を手軽に実現できます。
業務標準化の進め方は下記の記事でさらに詳しく解説しています。
業務標準化の効果的な進め方とは?メリット・デメリットも詳しく解説
マニュアル作成のデメリット
マニュアル作成にはさまざまなメリットがある一方で、更新のための手間が発生する点や、業務の柔軟性が失われるおそれがあるなどのデメリットがあります。また、現場に定着しないと、作成工数が無駄になる可能性もあります。
更新のための手間が発生する
多くの場合、マニュアルを作成した後も業務プロセスは少しずつ変化していくため、変化に合わせてマニュアルも更新していく必要があります。そのため、更新のための手間が都度発生することは、マニュアル作成のデメリットといえるでしょう。
1回あたりの修正の手間は小さくても、何度も積み重なると工数は膨らみます。日常業務もこなしながら修正対応を行わなければならないため、修正しやすいマニュアルを作成することも大切です。
業務の柔軟性が失われるおそれがある
マニュアルは誰でも一定の成果を上げることができる点で便利ですが、一方で、頼りすぎると業務の柔軟性が失われるおそれもあります。手順が決まっていて必ず同じ結果が出る業務はマニュアルに向いていますが、人によって結果が変わるような柔軟な思考力が求められる業務は、マニュアルの作成に適しません。
マニュアルの作成を検討する際は、そのマニュアルが業務の柔軟性を損なわないかどうかも検討することが重要です。
現場に定着しないと工数だけがかかる
作成したマニュアルが現場に定着しないと、作成にかかった工数が無駄になってしまいます。実際に現場で活用しやすいマニュアルを作成することはもちろん重要ですが、マニュアルの作成後に現場に定着するように、関係者へ周知徹底しましょう。
最初は使われていても、情報量の不足や検索性の低さなどが原因で、次第に使われなくなることもあるでしょう。現場に定着しない場合は、どこに原因があるのかを突き止めて、改善する必要があります。
マニュアルを定着させる方法については下記の記事でさらに詳しく解説しています。
業務標準化を叶えるマニュアルの運用ルールとは?6つのコツを解説
作成したマニュアルの整理方法や運用時のポイントを徹底解説
マニュアル作成の流れ
マニュアルを作成する際の流れは、一般的に次の通りです。
1.利用目的を明確にする
2.マニュアル化する業務の手順を洗い出す
3.マニュアルの網羅性を定義する
4.構成と表記ルールを決める
5.内容を記述する
ここでは、上記5つの流れを具体的に解説します。
1.利用目的を明確にする
マニュアルの作成を始める前に、まずは利用目的を明確にしましょう。利用目的が明らかになっていないと、どのような内容を記述すれば良いのかが分からないため、軸がぶれたマニュアルになってしまいます。また、利用目的が分からなければ対象者も絞り込むことができません。
「なぜマニュアルを作成する必要があるのか」「このマニュアルは誰がどのような目的で利用するのか」をはっきりさせてから、マニュアルづくりに取りかかりましょう。
2.マニュアル化する業務の手順を洗い出す
マニュアルの利用目的が明らかになったら、マニュアル化する際の業務の手順を洗い出します。マニュアルには業務が完了するまでの手順を詳細に記述する必要があるため、できるだけ細かく、すべての手順を洗い出すことが大切です。
いつも該当の業務を処理している人は、手順を記憶しているため、記述に多少の抜け漏れがあっても問題なく業務を処理できてしまいます。しかし、初めてその業務に取りかかる人にとっては、すべての業務が抜け漏れなく記述されていないと途中で手が止まってしまう可能性があるため、注意が必要です。
業務を洗い出す方法については下記の記事でさらに詳しく解説しています。
業務可視化とは?重要性やメリット、具体的な5つのプロセスを解説
3.マニュアルの網羅性を定義する
業務の手順を細かく洗い出せたら、マニュアルの網羅性を定義しましょう。マニュアルの網羅性とは、「作成するマニュアルにどの程度の情報を記述するのか」を決める作業のことです。
冒頭で解説したように、マニュアルには全体の業務フローや到達すべきゴール、業務の具体的な手順や前提条件・ルール、注意すべきポイントや必要な知識・スキルなどが記述されます。しかし、必ずしもすべての情報を記述しなければならないという決まりはないため、これから作るマニュアルにとって必要な情報を過不足なく定義することが求められます。
4.構成と表記ルールを決める
網羅性を定義した後は、マニュアルの構成と表記ルールを決めていきます。マニュアルの構成とは、どの順番で情報を記述していくのかを決める作業のことです。例えば「目次→全体の業務フロー→前提条件→業務の手順→注意すべきポイント」などのような流れを決定します。
また、ひとつのマニュアルの中において、表記ルールは統一しましょう。表記ルールを統一することで使用者の混乱を防ぎ、分かりやすいマニュアルに仕上げられます。
マニュアルの構成の作成方法は下記の記事でさらに詳しく解説しています。
マニュアルの目次はなぜ重要?作成時の6つのポイントを詳しく解説
5.内容を記述する
構成と表記ルールが決まり、すべての準備が整ったら、実際にマニュアルの内容を記述していきます。マニュアルの内容を記述する際は、見落としてしまいそうな情報も丁寧に拾い上げながら、誰が読んでも同じ成果を出せるような内容に仕上げましょう。
ある程度作成が進んだら、その業務を全く知らない人に使ってもらい、情報の過不足がないかどうかをチェックしてもらうのも効果的な手段です。業務に慣れている人が作成したマニュアルは、無意識のうちに必要な情報が抜けている場合があるためです。
マニュアル作成のコツ(ポイント)
マニュアルを作成する際のコツとして、マニュアルのテーマと利用者を明確に定義することや、必要な情報を探し出しやすいマニュアルを意識すること、イラストや図も積極的に取り入れることなどが挙げられます。
マニュアルのテーマと利用者を明確に定義する
マニュアルを作成するときは、「どのようなテーマにするのか」「誰が(どのような立場の人が)使うのか」を明確に定義することで、高品質なものに仕上げられます。例えば「受注管理システムへ受注情報を登録する方法」というテーマなら、使用者は受注部門の担当者が想定されるでしょう。
テーマや利用者を定義しなければ、業務内容の記載が曖昧になったり、対象者がぶれてしまったりして、精度が低いマニュアルになってしまう可能性があります。
必要な情報を探し出しやすいマニュアルを意識する
マニュアルの作成時は、使用する人ができるだけ使いやすいように、必要な情報を探し出しやすいマニュアルづくりを意識することが重要です。
そもそもマニュアルを使用する人は、取りかかろうとしている業務の手順や必要な知識を身につけていないことが多いと考えられます。したがって、必要な情報をすぐに探し出せるマニュアルになっていなければ、どのページを参照すれば良いのかが分からず、業務の手順を知ることができない可能性があります。
また、検索性を高めることで、業務の効率化にもつながります。
イラストや図も積極的に取り入れる
マニュアルは文字だけを使うのではなく、イラストや図も積極的に取り入れたものにするとより分かりやすくなります。
文字だけでは分かりにくい説明でも、イラストや図を掲載するだけで、視覚的に分かりやすい内容に仕上げることが可能です。実際に使用しているファイルの入力例や、作業後の完成図など、ひと目見て内容が分かりやすいイラストや図を使用すると良いでしょう。
すぐに使えるイラストや図がない場合は、マニュアル用に作成するための工数がかかります。しかし、マニュアルの精度を高めるためには、少しの工数がかかってもイラストや図を作成することをおすすめします。
マニュアルのテンプレート、パワーポイントでの作成方法については下記の記事でさらに詳しく解説しています。
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マニュアル運用時の注意点とルール
マニュアル運用時の注意点やルールとして、作成したマニュアルの内容を定期的に見直したり、運用しながら改善点を反映したりすることが大切です。ここでは、マニュアル運用時の2つの注意点とルールについて解説します。
定期的に内容を見直す
マニュアルは作ったまま放置するのではなく、定期的に内容を見直して、最新の運用方法が反映されているかどうかを確認しましょう。
日々の業務の中で運用方法が少しずつ変わっていくことはよくあるため、最初に作ったマニュアルが改訂されないままだと、次第に運用の実態に合わなくなり、「使えないマニュアル」になってしまう可能性があります。
業務内容を見直したタイミングで、マニュアルの該当箇所も同時に修正するのが理想的です。
マニュアルの運用方法については下記の記事でさらに詳しく解説しています。
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作成したマニュアルの整理方法や運用時のポイントを徹底解説
運用しながら改善点を反映していく
作成したマニュアルは、運用しながら使いやすさや情報量などを評価して、必要に応じて改善していくことが大切です。作った時点では完璧だと思われていたマニュアルも、運用し始めると情報量が不足していたり、検索性が悪かったりして、改善点が見つかることも少なくありません。
使いやすく、必要な情報が網羅されているマニュアルを目指して、使用者からの定期的なフィードバックを受けながら、改善点を反映していくことが求められます。
まとめ
マニュアルを作成することで、業務効率化や属人化の解消、教育コストの削減など、さまざまなメリットが期待できます。利用目的とターゲットを明確にして、必要な情報を探し出しやすいマニュアルに仕上げましょう。
マニュアルの運用時は、定期的に内容を見直し、最新の運用方法が反映されている状態を維持することが大切です。また、運用開始後は利便性の評価を行い、改善点を都度反映することで、さらにクオリティアップを追及できます。
マニュアルの定期的な更新は、通常業務のほかに対応しなければならないため、手間に感じる場面も多いでしょう。マニュアルの作成・更新を効率化するなら、PowerPointをアップロードするだけでマニュアル動画を作成でき、何度でも追記・修正が可能な「PIP-Maker」がおすすめです。
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